【書評】エヴァン・D・G・フレイザー、アンドリュー・リマス『食糧の帝国』(太田出版、2013)

 

 堤未果さんの『(株)貧困大国アメリカ』や鈴木宣弘さんの『食の戦争』を読む中で、現代の食糧事情や問題点はなんとなく理解できたものの、そこから何かを論じるにはまだ知識不足だと感じていました。そこで、歴史的に食糧はどのような役割を果たしたのか?が知りたくなり、本書を手に取りました。

 

 本書の副題は、「食物が決定づけた文明の勃興と崩壊」となっているように、古代エジプト、古代ギリシャ、ローマ、中世のヨーロッパ、中国、アメリカなどの歴史上の帝国を「食糧」という切り口から考察しています。

 

 まず食糧帝国は次の3つの条件から成り立っています。

条件1:農民が自分たちで食べる以上の量の食糧を生産できること。

条件2:買い手に売るための取引手段が存在すること。

条件3:経済的利益をもたらすまで食糧を保存できる手段があること。(9頁)

 の3点です。そして食糧帝国は持続可能な規模以上になり崩壊していきます。

その要因も3点あります。

要因1:近代以前の都市が処女地の耕作による余剰食糧を基に発展したこと。(余剰食糧ありきだったこと。)

要因2:温暖な気候が長期的に続くという、気候の幸運に頼っていたこと。

要因3:栽培作物を特化させた農業に依存していたこと。

 の3点です。

 この3点を満たし、歴史上の食糧帝国は崩壊していきました。面白いくらいに同じ道を辿って死んでいくのにびっくりしました。

 

 では、そうならないようにどうしたらいいのでしょうか?

 フェアトレードによって、すべての人が食糧と必要最低限の賃金を得られるようにしたり、有機栽培によって、農地から化石燃料を削減するのも必要である。

 またスローフード運動を普及させることも大事である。しかし、一番大事なことは、持続可能性である。そこで、「小規模な農場で、多様な農作物を育て、距離の離れていない顧客に販売すること」(バイオリージョナリズム、生命地域主義)という考え方を普及させるべきなのです。これをグローバルな取引ネットワークに組み込めば良い。そうすることで両者の欠点が補われるのです。

 

 本書は、難しい部類の本です。ものすごく食糧問題に興味があるか?歴史好きでなければ、読み通すことは難しいです。しかし、とても面白く、示唆に富む本です。僕は本書を読んで、食糧問題に関して、歴史という観点が増えたことにより、深く広く見られるようになったと感じています。

 

 以上です。では失礼します。m(__)m