胡散臭いと思うなかれ-【書評】中山智弘『元素戦略』(ダイヤモンド社、2013)

  差し迫る危機とは何か?そのひとつが「元素危機」である。

 今後の自動車産業の主軸となるハイブリット車や電気自動車に必ず使われるネオジム磁石が使われている。そのネオジム磁石を作るには、希少元素の「ジスプロシウム」が必要である。また、液晶テレビや有機ELテレビ、あるいは太陽電池には現在、ITOと呼ばれる透明電極が使われており、それを作るには「インジウム」という希少元素が必要である。

 このように、現在では、日本が世界に誇る製品を作るには、希少元素が必要不可欠になっている。しかし、その希少元素は、①供給量がきわめて僅少であること、②先端製品に必要不可欠なこと。③資源国が非常に偏っていること、の3点から供給が早くも先細りしている。これが元素危機である。

 この希少元素不足を解消する運動が、元素戦略と呼ばれており、オールジャパン体制で進められている。そのプロジェクトについてまとめられたのが本書である。

 

 希少元素を調達する方法は3つある。

①どこかから(海外とか海底などから)探してくる。

②リサイクルしてもう一度使う。「都市鉱山」といわれる奴である。

③科学を駆使して作り出す。

 例えば、使わなくなった携帯電話から、希少金属を取り出すのは②であり、日本近海に○○が大量に埋まっているという話は①である。

 

 信じがたいことに『元素戦略』に書かれている話は③である。「錬金術じゃないんだから(笑)。」「ニュートンが晩年に嵌った胡散臭いやつやん(笑)。」と言われそうだが、それを大真面目にやっているのである。

 それでは、語弊を招くので、もう少し丁寧に解説すると、元素戦略の核は次のようなものになる。  

「元素」そのものを錬金するのではなく、「製品に必要な希少金属の特定の『機能』を別の元素で置き換える」こと。(まえがきより)

 

 では、具体的にどのように元素を作り出すのか?それは20頁以降に書かれている。そのうちのひとつが「元素間融合」と呼ばれているもので、元素Aと元素Cを混ぜることで、その真ん中に位置する元素Bの機能・性質を持つ元素を産み出すというものである。(本書では、ロジウムと銀を混ぜることで、パラジウムの機能を産み出したと紹介されている。)

 

  また、本書には、「元素戦略」はどのように進められてきたのか?どの分野が熱いのか?などが書かれている。元素戦略が面白いと思った若い学生は、巻末の付録にどの研究者がどういう研究をやっているのかまで載っているので、自分の進路の参考にもできる。

 

 最初は、胡散臭いと思って読んでいたが、だんだんと中央省庁が絡んでいたり、大御所の学者が関わっていたりと、そのスケールの大きさ、この戦略の大切さが分かるにつれて、そうでもないと思うようになった。最初の数章がとても興味深く、満足した。結構、今年は科学の本は読んだが、その中でも最高の出来で、読んでいてワクワクする。名著である。

元素戦略  科学と産業に革命を起こす現代の錬金術

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