【書評】津田敏秀『医学的根拠とは何か』(岩波新書、2013)

 津田敏秀さんの『医学的根拠とは何か』を読みました。帯に「福島、水俣、薬剤データ改ざんーすべて根は同じ」と刺激的なことが書かれており、原発問題に興味を持っている僕としては、読まないという選択肢はないので、読んでみることにしました。

 僕は卒業論文でエネルギー問題を書こうとしており、その時に、放射線の「年間100mSv以下で健康に問題が出るのか?ガンになるのか?」という問題があります。色々調べていると、 「統計的に有意ではない。」「健康に影響はない。」「ガンになった人もいる」など様々な意見が飛び交って、締切は近づくわ、どっちか分からないわで、発狂しそうになりました。「一体、お前たちは、どの根拠に従っているのか?」と思うわけです。

 

 ということで、訳の分からない医学的根拠の実体を探っていきます。

 その前に、医学的根拠は3種類存在しているとしています。①直観派②メカニズム派③数量化派の3つです。直観派は医師としての個人的な経験を重んじる人たち。メカニズム派は動物実験や遺伝子実験など、生物学的研究の結果を重視する人たち。数量化派は、統計学の方法論を用いて、人間のデータを定量的に分析した結果を重視する人たちです。

 この3種類の宗派が侃侃諤諤の議論をし、20世紀後半にやっとこさ、国際的な合意が出来上がります。EBM宣言と呼ばれるものです。

 EBM宣言とは、「根拠に基づいた医学は、直観、系統的でない臨床実験、病態生理学的合理づけを、臨床判断の十分な基本的根拠としては重要視しない。そして、臨床研究からの根拠の検証を重要視する。」(37頁)

 この宣言以来、統計分析ツールとしてのパソコンやインターネットの発達もあり、EBM宣言はどんどん広がっていきます。

 しかし、日本ではまだ浸透していません。「直観、系統的ではない臨床経験」を重視する直観派の医師の理解が得られないし、メカニズム派の医師や医学研究者が多いからです。

 

 さらに、僕の冒頭の100msvの問題は、98頁に答えがあります。「有意差がない」というのは、「影響がない」というのと違うのだそうです。

 

 最後に、医学界への提言までされています。「統計学を勉強せよ。」そして、「自分でデータを分析した論文を読み解き、現場で集めたデータを自分で分析して論文に仕上げる能力を身につけよ。」と提言されています。

 

 医学関係者でないと、ちょっと難しい箇所はありますが、それを抜きにしても力作です。ちょっとでも医学的根拠を疑っている人なら絶対に買いです。刺激的な箇所も多く、役に立つ箇所も多いのでオススメです。

医学的根拠とは何か (岩波新書)

医学的根拠とは何か (岩波新書)